雲の隙間から月光が射すこの夜にタクトを振る。
突きあげられた両手は月光を二つに割いた。
息を呑む。手が震えてくる。
そして、息を吐く。
刹那にタクトは虚空を切り裂いた。
リズムを描くように、旋律をなぞる様に、楕円を描くタクトは、この夜に私だけの音楽を奏でた。
私の耳にその旋律に相応しい幻音が響き渡る。
脳が世界をうら返し、私だけの世界が広がる。
さっきまで食べようと決めていたプリンが忘却の彼方へ散っていく。
迷いはなかった。
全てが何かを知っているかのように体が自然に動いていく。
夜の闇を汚したビルの規則正しい灯りが、街灯のぼやけた光が、車の通り過ぎていく光が消えていく。
「夜は綺麗だ。余計なモノが見えなくて済むから。」
静かにまぶたを閉じた。
合図を待っていたかのようにタクトが激しく躍動する、風を切る感触が肌から伝わってくる。
私の高揚と憂鬱は揺さぶりを魅せながらも、心地の良い律動を刻み続けている。
背筋に緊張感が走る。終焉を迎える恐怖なのか、それともただの筋肉痛なのか。
いや、ここに思考は無い。心は空のままだ。
律動が最高潮に達していく、音と体が重なる衝撃に私の本能は煽られていく。
流れ落ちていく汗は、私を耽美に魅せていた。
見える。。。その瞬間、私は目を開いた。
実体が虚構に吞み込まれ、私の世界が完成を迎えた。
そして、タクトが再び月光を二つに割いた。
気づけば私は夜空を見上げていた。
「こんなに星が輝いている。」
「寂しいOLに認定されました。」
「地味に根に持っています。。。」
私はこの夜にタクトを振りたい。
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